RUEC

ECMとは?

   エネルギーコスト・モニタリング(ECM)は、実質的なエネルギー価格の変化が経済システムに与える影響を集約した指標として、 実質単位エネルギーコスト(Real Unit Energy Cost:RUEC)の月次推計値を、1か月ほどのタイムラグを持って推計しています。 現在、ECMは日本経済のみを対象としていますが、2022年年度内には主要国をカバーした四半期系列も開発していく予定となっています。

RUECとは?

   ECMにおいて、短期的な変動として注視される指標は、経済全体の最終エネルギー消費をカバーして各種エネルギー価格の変化を集計した「名目エネルギーコスト」と「名目エネルギー価格」、また一単位の生産量あたりの実質的なエネルギーコストを評価した「RUEC(実質単位エネルギーコスト)」です。 RUECの上昇は、一国経済におけるエネルギー価格高騰に対する耐性が脆弱化していることを意味しています(より詳しい解説は以下の「RUECの含意」や「関連情報」を参照ください)。

RUECの含意

   産業や家計が消費するエネルギーは、原油、LNG、石炭などの一次エネルギーに加え、国内において生産される電力や都市ガスなどの二次エネルギーがあります。 二次エネルギーの価格は一次エネルギーの価格を反映したものですし、エネルギーの種類によって価格も異なります。 エネルギーの消費構造は国によって異なりますし、また時系列的にも変化しますので、適切に集計した総合的なエネルギー価格を算定する必要があります。 ECMでは、最終的に消費される集計エネルギー価格として、エネルギー消費構造やエネルギー種別の質的な違いを考慮した、「名目エネルギー価格」(pE)を推計しています。(※1)
   集計的な名目エネルギー価格の変化は重要な情報ですが、経済体系としての実質的な影響を評価するためには、生産価格(アウトプット価格)との対比として理解することが重要です。 もし日本の生産物が国際的に高く評価され、自らの生産価格を高めても需要が落ちないならば、エネルギー価格上昇は生産物(生産される財・サービス)の価格へと転嫁することができ、名目的なエネルギー価格上昇による悪影響は緩和されるでしょう。 逆に、デフレ的な基調が継続する低迷した経済では(日本ではこちらが深刻ですが)、主要国が同じ名目エネルギー価格の上昇に直面しても、実質的にはより深刻なダメージを受けることになります。 よって実質的な影響とは、「名目エネルギー価格」を国内で生産される財・サービス価格(pX)(集計レベルでの生産価格はGDPデフレーターと呼ばれます)で除した「実質エネルギー価格」(pE/pX)によって評価する必要があります。
   実質的な影響を評価するために考慮すべきもう一つの要素は「エネルギー生産性」です。それは一単位のエネルギー量あたりの生産量(X/E)として定義されます(※2)。 もし省エネ技術が安価に利用可能であるなら、実質エネルギー価格の上昇による悪影響は緩和できる可能性があります。 しかしこれまでの省エネ法などの規制強化により、すでに経済合理性を超えるほどの水準にまで省エネ技術の導入が進行した経済であるとすれば、こうした適応は限定的なものにならざるをえないでしょう(※3)。 技術的に可能であることのみを根拠として省エネ投資を政策的に誘導し続ければ、全体的な生産効率は毀損されてしまうかもしれません(※4)。それを回避しようとする企業は、国内生産を回避して海外生産を拡張しようとするかもしれません。
   RUEC(実質単位エネルギーコスト)とは、「実質エネルギー価格」(pE/pX)を「エネルギー生産性」(X/E)で除した比率として定義され、上述のような情報を集約した指標となります。 名目エネルギー価格が上昇する状況、国内生産価格(GDPデフレーター)が低下する状況、あるいは(安価な省エネ技術の利用可能性が制約されるなかで)エネルギー生産性の改善によってその影響が緩和できない状況において、RUECは高まってきます。 その上昇は、さらなるエネルギー供給障害などに対するリスクが高まっていることことを意味しています(※5)。
   RUECは、名目GDP(pX*X)に対する名目エネルギーコスト(pE*E)の比率としても捉えることができます。それは数%などと小さなもののようにみえますが、 経済成長におけるエネルギーの重要性は、その見かけ上の数値をはるかに上回ります。 重要なことは、RUECの上昇が他の主要国に比して高いものとなれば、国内における資本蓄積を停滞させ、労働生産性の改善を毀損させる可能性が大きいことです。そのためにもECMでは、将来的に主要国のRUEC格差を推計することを目指しています。 こうした懸念は将来の可能性ではなく、1990年代後半からの日本経済の停滞の要因ともなっていると考えられます。日本のエネルギー環境政策を誤ることのないよう、ECMが包括性と速報性のある情報として公益に資することを望んでいます。

(※1)このようなエネルギー価格の集計値は、品質調整済みエネルギー投入価格(quality-adjusted energy input price)と呼ばれます。 詳細は拙著(2021)『日本の経済成長とエネルギー』(慶應義塾大学出版会)の第2章2.1節を参照ください。 本書では長期時系列として1955年から2016年までをカバーしていますが、ECMでは直近までの月次推計値を算定することで補完的な役割を担うため、2022年1月初めから開発を始め同年4月に公開に至っています。
(※2)エネルギー生産性(energy productivity)は、エネルギーと生産量の関係性としての指標ですが、ECMでのマクロ経済の測定値では、純粋な技術的改善のみではなく、 企業による国内生産の抑制や、家計によるエネルギー消費の抑制(エアコンや自家用車の利用を我慢するなど)、あるいは産業構造の変化(エネルギー多消費的な財の国内生産を止めて輸入に切り替えることなど)による影響を含んだ(グロスの)指標であることに注意してください。 拙著(2021, 第2章)では、近年の日本経済におけるエネルギー生産性の改善では産業構造と産業内における生産物構成としての変化(海外への生産移転)による影響が大きいことが示されています。
(※3)近年のエネルギー価格高騰では、日本よりも米国のエネルギー生産性成長率のほうが高く、日本が優位性を持っていたエネルギー生産性格差は縮小していることが指摘されています(拙著(2021, 第3章))。
(※4)エネルギー生産性が改善しようとも、それが資本生産性を犠牲としたり(過剰な省エネ投資を求める規制強化など)、労働生産性の改善を抑制してしまうものであれば (労働生産性を高めるための設備投資がエネルギー消費増加をもたらすためできない、過剰な省エネやその管理のための(収益を生まない)労働を増加させるなど)、 全体的な生産効率(これはTotal Factor Productivity(TFP)と呼ばれます)を毀損させ、経済成長に対して大きな負担となります(拙著(2021, 第4章))。
(※5)わかりやすくまとめた資料は、経済産業省の会議(2022年3月23日)のプレゼン資料を参照ください。 また、そのときの説明動画はこちらにあります。 現在のECMは2015年1月を開始月としていますが、年次RUECとしての1955年(昭和30年)からの長期動向のグラフもECM_JPN_202211から追加しました(過去の長期系列は拙著(2021)によりますが、ECMのRUECとはわずかに概念差があります)。


テクニカルノート

   ECMにおける最新月の推計値は予測値、最新月の前月は速報値、それ以前は確報値となります。 実質GDPとエネルギー消費量は、それぞれ32産業ごとの推計値(pXとX)および21エネルギー種ごとの測定値(pEとE)に基づく連鎖ラスパイレス指数による集計量として定義されています。 GDPデフレーターおよび名目エネルギー消費価格は、名目GDPおよび名目エネルギーコストおよび上記の実質系列からインプリシットに算定されています。 四半期GDPとしての推計値はJQGDPを参照ください。
    ECMの確定値は、内閣府経済社会総合研究所(ESRI)による日本の国民経済計算体系(JSNA)における基準改定値、年次推計値(ANA)、四半期推計2次速報(2nd-QNA)の最新推計値の公表に伴い、 産業別推計値(基準改定およびANAにおける年次系列)および一国経済(2nd-QNAにおける四半期系列)として、GDPの名目値および実質値が整合するように遡及して改訂されます。 またECMの推計フレームワークの見直し、一次データの利用先の変更やその加工法の改訂などによっても、ECMは遡及して改訂される可能性がありますので、時系列的な比較は常に最新のECM推計値を利用してください。 なお大きな改訂の際は、ECMデータシート(xlsx)内の脚注において報告します。

引用等に関して

   ECMで公表する著作物の著作権は、慶應義塾大学産業研究所野村研究室に帰属しますが、 出典に「慶應義塾大学産業研究所野村研究室 エネルギーコスト・モニタリング(ECM)」と明記することにより、 自由に印刷・複製・引用・転載・データの二次利用などいただけます。 著作物の利用申込手続きは不要ですが、産業研究所事務室(sankenoffice@info.keio.ac.jp)まで ご連絡を頂けましたら幸いです。

   ECMの理解やエネルギー状況の理解を深めるためにも、以下の関連情報をご参照ください。

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